私が狂うその前に

(去年の秋にメモしたやつ出てきたからアップするだけです)

 

 

 

 

 

 

明樹水底という名前はかっこわるい。ダサい。


今日ちょっと、狂いかけた。こんなことを言っても信じてもらえないかもしれないけれど、本当に最近ギリギリだから。と言っても急に狂い始めたのではなくて。産まれた瞬間からゆっくり24年間(厳密に言えば24年にはあと2か月と少しあるけれど些細、割愛)、時間をかけて少しずつ少しずつ狂っていって、ときどき点々となにがが途切れる瞬間があって、私をなにか移ろいやすくも不可欠な世界のための、その世界を守るための膜、粘膜、愛らしいものが住む世界の粘膜、の内側にきちんと結び付けていてくれていたはずのか細い糸のいったい何本だろうか、ともかく糸が、ぱつん、ぱつん、と切られる瞬間があって、それはほとんど全て他人たちによる切断だった。切られた糸は消え、私の体は浮き上がっていくので粘膜の天井にぴったりと張り付いてしまい、ここ数年の間ずうっと、それでも誠実であろうとし続けてきた。ところで近頃やっと気づいたのは、私の糸はもともと世の中の大多数の人々より極端に少なかったのだということで、こうなることはさだめだったのかもしれない。と、すると、私は。いったいなんだ?疑念が浮かんだとき、ぱつんと糸の切れる音をまた一つ聞いた。粘膜の外側にぬるりと片手が飛び出して、触れた空気は未知の甘美だった。あたたかい。魅惑のおそろしさに叫びをあげて腕を引いてもびくともせず、悲しいことだけど悟ってしまった。もう二度と戻ってこない。私の片手は死ぬまでこのままだ。ごく薄く濁った粘膜の向こう側で、自分の手のひらが、指が、勝手に暴れまわるのをぼうっと見ていた。別の生き物だった。だけれども、紛れもなく私だった。狂いかけている。狂いつつある。自分自身の不幸の強大さを初めて本当の意味で知った、いや、ちらちらと視界の端に見え隠れするそれを、初めて直視した、知りたくなくても知る必要があって、いつか直視しなければならない日が必ず来る、つまり今日だった。いつか来る今日の日が当たり前に、ごく当たり前に、まるで儀式のように。来ただけという、なんの変哲もない話なのだ。気が狂う。狂いかけた。あのまま諦めていたら、体の全てが粘膜の外側へと飛び出して、私はいったい何になっていたのだろうかと、今もなお暴れまわる片手を見ながら思う。あーあ。落胆。力が抜けた。風呂場で小便を洗う。浴槽じゅうにまき散らした小便は真っ黄色で、まあ、自分のものだった。恋人もセフレもいないので。最近は一日中性器を触っている。触っても触っても足りなくて、自慰だけで一日が終わる。本当にそれしかしていない。何度も何度も突いて、声を殺してのた打ち回って絶頂に達する。一日に何回も何回も、何回やっても足りなくて、何回も何回も、どうしても自分の中の誠実を殴り続けて全て殺し尽くしてしまいたくて、どうしても死んでくれない誠実があって、ディルドをめちゃめちゃに突き立てて、自分の性器の一番感じるところに狙いを定めて執拗に殴り続けて、殴り続けて、殴って殴って殴り続けて、また激しい絶頂で全身が跳ねて、そのたびに小便を漏らす。潮吹きというやつかなと思ったけれど、尿だ。汚物だ。潮とはそもそも前立腺から分泌されて尿道から出る無臭無色の体液、ということらしく、真っ黄色でいわゆるアンモニア臭のひどい私のこれはただの尿だなと気づいて、愕然となんかしなかった。当たり前だ。当たり前なんだよ。風呂場で脚を開ききって、壁に鏡に洗面台に浴槽のフチに無我夢中でしがみついてディルドで性器を殴り続けて絶頂、絶頂、絶頂、苦しくて息ができない絶頂が来てワケもわからず汚物を漏らしてばしゃばしゃまき散らして、そのままへたり込んで涙が出ないのにガタガタ震えて、少しすればまたその場で脚を開いて性器を殴る。すぐに絶頂、また漏らして、呼吸が落ち着けばまた殴り、絶頂、漏らして、また殴り、絶頂、漏らして、殴って、絶頂、漏らす、殴る、イく、イく、イく、おもらし、かきまぜて突いてかきまぜて突いてかきまぜて突いてイくイくイくイくイく、おもらし、おもらし、おもらしして、膀胱が空になってなにも、本当になにも出なくなって、まだイきたくて、まだイきたくてイきたりなくてたりなくてたりなくて、どうしても誠実を殺さなきゃなんないから。殺さなきゃなんない、誠実を。私が固執した、し続けた、かわいそうなこの誠実をいっそ一思いに、殺してやんなきゃいけない。息の根をとめてあげたい。たのむよ、お願いだよ。死んで。死んで。私はもうお前を愛してやれないよ。ごめんなあ、助けらんなくて。ごめんなあ、助けてやれればよかったのに。だめだったなあ、だから早く死ねよ。お願いだよ、許してよ。もう、もう、もう、あー、あー、あー、ごめんまたイくね、おまんこ気持ちいいよ、すげー気持ちいい、どうでもよくなっちゃうぐらい、すべてがどうでもよくなっちゃうぐらい、おまんこびくびく震えてるよ。あーイく。あー、イくイく。どうでもいい、どうでもいいどうでもいい。どうでもいい。どうでもいいや、ごめんね。気持ちいい、ごめんねイく。あっ。あっ。あっ。あっ、あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ、あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ、あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ、あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ、あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。あっ、イく…ぱつん、あっ。あっ。あっ、あっおしっこ。おしっこおしっこ。おしっこ出ない。出ないや。あ、あ~。おしっこ出たほうが気持ちいいのに。ああ。あ、あ。あー。イった。またイった。あー。あー。イった。イったイった。イったイったイった。おまんこイった。ぐわ~~~~~~~ん、あれ、変、あ?あれ?あれ…ぐわんぐわん…あれ…。~、、。。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー、あっ、なに今の?あれあれ、あれあれあれ、あれあれあれ。あ?狂う…あ?狂う…狂ってない。大丈夫だった。ああすべてが。すべてが。すべてがどうでもいいのかも。どうでも、あ、片手が暴れてる。おっそろし。そっか、今狂いかけた。でもどうでもいい。悲しいけど。だからって、なあ…戻んないもんこれ。戻んない。戻んないんだなあ。おしっこ洗わなきゃ。くさ。臭いよ。すごいにおい。汚いし、ああ。さだめなんだろうな。これが。なるほどなあ、分かったんだなあ、分かれたんだなあやっと、そうだ、全てが決まっていたなあ、初めからずっと、産まれたときから、その瞬間からずっと決まっていたことで、つまるところ私は異常で、異常な赤ん坊として産まれてきてしまったわけだから、だから親にも捨てられたんだろう。そりゃあいらないよなあとは思うし、流石にそのぐらいは理解できた。全てが理解できた。いらないだろうそりゃあ。成長してやがて大人になっていくにつれてどんどん弱くおかしくなっていく異常な赤ん坊なんていらないだろう。私だってこの誠実がいらないよ。この理想がいらないよ。母親の顔を思い出すと決まっていつも嫌な気持ちになる。縁を切ったはずでもやっぱり変わらず落ちる影はいつでも私を覆い隠して、いつだって全てを飲み込んできた。どうしてあの人はあんなに笑うんだろう。笑いながら私を壊したんだろう。母親は男と寝ては捨てたり捨てられたり、男の性欲は母親へ向いて、言葉の暴力は私へと向いて、私の体が成熟し始めると一度母親の中を通った性欲が私にも向いた。セックスセックスセックス。裸の母親と男。大人になったら私も裸になった。これは少女の頃に気づいたけれど、多くの男にとって性器というものはひどく魅力的らしく、だからどれだけ嫌でもすぐにその利用価値を思い知ることになった。少女、というより普通に、「子供」だった。大人びた子供だった。そう言われ続けてきた。幼稚園、小学校、残りカスでもいいなら中学校ぐらいまでは。しっかりしてるわね、自分の考えを持ってるのね、きっと大成するね、きっとすごい人になれるよ、きっと誰より。誰より輝けるよ。同時に言われる「独特なのね」が、そういう意味だったことに気づき始めたのは、17を過ぎてからだった。その頃には誰にも褒められなくなって、大人全員から腫れもの扱いで、気がついたら高校を辞めて、それで私は、裸になった。知らない40代ぐらいの男でほんの小さな処女を殺して、何人かとセックスしたあとラブホテルの前で強く腕を引っ張る母親の昔の恋人とセックスをして、お母さんは。この人と。結婚するって言ってたなあ。ぼんやり思い出して、もう18歳になっていた。あーあ。腫れものの子供が腫れもののまま大人になって、どうなっちゃうんだろ。どうなっちゃうんだろうなあ。こうなった、こうなったんだよ。尿、おしっこ、小便、汚物。汚いもの。にまみれながらびりびり痺れる性器をそれでも力いっぱい殴り続けて満足できずに疲れて寝て朝が来て起きたらまた一日中、なんていうみっともない大人になっちゃったよ。腫れものですらないじゃん。腫れものですら、ないじゃんかよ。じゃあなんだよ。ああ、あったかい。かたっぽの手だけあったかい、あったかいよ、死んでくれよ、死んでくれよ。死んでくれよ、誠実、死んでくれよ。誠実なんかいらないんだよ。持ってたってさあ、しょうもないんだよ。私は誰なんだよ。何者にも、なれなかったんだよ。お母さん。お母さあああん。やっと分かったよ、私が一番セックスしたいのはお母さんだ。そうしないとこの誠実も、お母さんの心も殺せないでしょう。でもその前に狂ってしまいそうだよ、私はそれが、どうでもいい。心の底から。どうでもよくなった。この手が触れたあたたかな空気の、きっと果てしないはずの甘美だけが、私にとっての聖なるものになってしまった。そういう日だった。あかるく生きるはずだったのにね。