美少年と私

私「美少年くんは頑張ってて偉いなあ 飴ちゃんやるわ。レモン味や。ごめんなあ、おいちゃん仕事してへんからこんなもんしかあげられへんわ」

 

美少年「ううん、ありがとう。おいしいね」

 

私「そうかそうか!いい子やなあ!……おいちゃんな、ほんまは昔…現役女子大生フリーライターになりたかってん」

 

美少年「おいちゃん………泣いてるの?」

 

私「ああ、すまん、すまん、昔話してもうた  ポロっと出てもうたわ。おいちゃんしまりがないからな!ハッハッハ!今のは忘れてな。おいちゃんのむかーしむかしの夢なんか忘れとき…………美少年くんはいい子やさかい、おいちゃんみたいになったらあかんで。おいちゃんとの約束や」

 

おいちゃんはそう言って立ち上がると、背中越しに手を振って、

お酒に酔った足取りでフラフラとどこかに行ってしまった。

いつもの光景だった。

長い会話が終わるとおいちゃんはいつも、「どこか」に行くのだ。

おいちゃんがどこから来てどこへ行くのか知らないけど、

僕はおいちゃんと話すのは好きだった。

おいちゃんはあんまり物を知らなくて、

難しい言葉を使うと「はえ?」と目を丸くするので、

僕はわかりやすい言葉だけ使うことにしていた。

おいちゃんはいつもお酒を飲んでいた。

一度、あんまり飲みすぎると体に悪いよと言うと

「いーのいーの、おいちゃんはもう死んでるんや」と返されたことがあって、

その時はよく分からなくて、

一瞬おいちゃんはほんとは幽霊なんじゃないかと思ったけど、

おいちゃんにはちゃんと足があったし、触っても冷たくなかった。

ただ、少しべたっとしていて、脂っぽいだけだった。

おいちゃんはよく笑う。

よく笑うし、僕のことをたくさん褒める。

美少年くんはいい子だ、美少年くんはいい子だ、

って、いつもたくさん言う。

だけどおいちゃんは、最後まで自分のことを褒めなかった。

おいちゃんバカやから、おいちゃんこんな顔しとるから、

おいちゃんな、おいちゃんな…ダメなやつやさかい。

僕は何も言わなかった。言えなかった。

ただ、おいちゃんにも人生があるんだと思っていた。

だから何も言えなかった。

あの夜以来、おいちゃんに会っていない。

待っても待っても、来ないのだ。人気のない高架下、薄暗くてひんやりした、

真夜中にだけ開かれて夜が明けたらいられなくなる、

僕とおいちゃんだけの秘密基地は、もうなくなってしまった。

おいちゃんのいないここはなんにも楽しくなくて、悲しくなって、

でも本当のこと言うと、いつかは絶対こういう日が来るんだろうなって、

ほんと言うと、初めておいちゃんにあった日から思ってたんだ。

だっておいちゃん、よく笑う人だったけど、

すぐに死んでしまいそうな人だった。

からっぽの笑顔だった。笑って生きるしかなくなった人の笑顔だった。

おいちゃん、どうしてるかなあ、って考えながら

おいちゃんの好きだったワンカップをグイッとしてみたけど、

からくて上手く飲めなかった。

おいちゃん、元気かなあ。

 

 

次の日、人が飛び降りたと近所の人たちが騒いでるのを見た

 

 

 
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